起点は魚沼市にある小出駅。「会津若松」と掲げられた2両編成に乗り込んで、早速、ボックス席を確保、用意してきたお酒とつまみを窓台に並べる。これから始まる4時間45分の電車旅は乗り鉄、撮り鉄ならぬ「呑み鉄」と決め込んだ。
いざ出発。県境手前の大白川駅までは、魚沼の田園風景と民家、背景には魚沼の山々。この風景、並走する国道252号線から見たことがあるはずなのになぜか新鮮。電車は、いつもと違う時間、空間に入るスイッチをくれるのだろう。
民家がまばらになるにつれ、雪国らしい景色になってきた。とんがり帽子のような屋根に深い軒。屋根に積もった雪を、自然に軒先へと落とす形だ。「雪国の知恵」を見ていると、線路脇で手を振ってくれる人の姿が!この先、県境を越えても出会うことになる沿線の人たち。孫と散歩中に、あるいは畑での作業中に腰を起こして、にこやかに手を振る。思わずこちらも振り返す。「いってきまーす」。少しくらい声に出してもいいだろう。車中はほぼ旅人になっているからだ。
沿線の暮らしの気配まで感じられる近しさ。それは約135キロを4時間45分でゆっくり走る時速平均30キロにあるだろう。県境を越え、田子倉ダムを皮切りに水と緑の景色に入り込むと、このゆるゆる速度が、今度は自然の手触りを届けてくれた。続く緑のトンネル。鬱蒼とした緑の中、湖のごとき静かな只見川の川面。緑を映す水面には時に川霧が立ち上り、まるで絵画のよう。そして自然の中に突如、現れる鉄橋の数々。水と緑と鋼鉄の建造物、その対比がぐっとくる。絶景ポイントの多くを占めるのも納得だ。
会津桧原駅までは、自然の多様な表情に浸り、移り変わる風景をただ眺めながら、お酒を飲む。なんて愉快。気づけば電車は再び田園風景の中へ。民家が見え始めたと思ったら、どんどん町中へ入っていった。
途中、山の中で下車する客もちらほら見えた。どうやら温泉宿があるらしい。ほかにも、早戸駅で降りれば、只見川に復活した手漕ぎの渡し舟「霧幻峡の渡し」と薬湯の温泉を楽しめるという。もう少し新潟県寄りで下車、川遊びをして、日帰り湯と駅のそばで蕎麦を食べ、上り電車でryugonに戻る日帰りパターンもありだ。只見線を基軸にいろんな体験ができる。深いぞ、只見線。
会津若松駅を降りると夕方だった。5時間弱の電車旅は、言うならば日常から離れてゆったり時間を楽しむ旅。自転車に近い速度で、沿線の暮らしを感じ、ダイナミックな水と緑に包まれ、気がつけば心が満ち足りていた。ほろ酔いで明日のレンタサイクルを確認したところで、本日の宿、東山温泉へ。さて、今夜はどんなつまみで会津のお酒を飲もうか。旅は続くよ、どこまでも。