雪国の1年は、ほぼ半分が雪に閉ざされる冬でした。春の遅い雪解けの後すぐに保存食にもなる山菜とりや田植えが始まります。夏の間は、収穫も流通も絶える冬ごもりに向けての準備期間、とも言えます。
江戸末期に雪国の暮らしを描いた鈴木牧之の名著『北越雪譜』によると「およそ雪九月末より降り始めて雪中に春を迎え、正二の月は雪なお深し。三四の月に至て次第にとけ、五月にいたりて雪全く消えて夏道となる。されば雪中にあることおよそ八ヶ月、一年の間雪を見ざることわずかに四ヶ月なれども、全く雪中にこもるは半年なり」と一年の半分を雪に埋もれて暮らすために「雪中には一点の野菜もなければ、家内の人数にしたがいて雪中の食材を貯ふ。その他雪の用意に種々の造作をなすこと筆に尽くしがたし」と綴ります。 生活の様子は「雪ふること盛んなる時は積もる雪、家を埋めて雪と屋根と均く平らになり、明かりのとるべく処なく、昼も暗夜のごとく燈火を照らして家の内は夜昼をわかたず、ようやく雪の止みたる時、雪を掘りて僅かに小窓をひらき明かりをひく時は、光明かくやくたる仏の国に生まれたる心地なり」という壮絶さです。 現代と違いおよそ半年、雪に埋もれて暮らすため、食料は、短い春から秋までに育て収穫して保存するための加工を行う必要があります。その忙しさはまさに「筆に尽くしがたし」です。雪国の暮らしは夏でさえも冬の暮らしを意識したものといえます。
春に採取された山菜は乾燥か塩漬けでアクを抜くと同時に次の春までの保存食として蓄えられます。
塩漬けは野菜の保存の基本。細かく切った漬物と野菜の「きりざい」は魚沼の郷土料理です。
北前船で運ばれた「身欠きニシン」や魚野川で釣れる「鮎」を使った甘露煮は冬の間の貴重なたんぱく源でした。
ウド、ふきのとう、クロモジ、杉などをアルコールに仕込んだ ryugonnバー「山菜草酒」が好評です。
低温で空気が清浄な雪国は、発酵に良い条件が整っています。木桶天然醸造の味噌はまろやかな味わい。
米どころ魚沼地方。お米は通年食べる主食であり保存食。お正月のお餅は冬のご馳走でした。
鈴木牧之の時代と違い、鉄道も高速道もでき、除雪により冬でもクルマで自由に行動。冷蔵庫があり食材流通も世界規模の現代ですが、雪国では保存食文化の豊かさが味わえます。 ryugon のアクティビティ「土間クッキング」で通年提供されている山菜料理もその一つです。担当の関さんは、この山菜の採集、調理保存、世界各国のお客様のおもてなしと、すべてをこなす大活躍ぶり。取材した日も「このあと外国からのお客様五人とお料理するのよ。言葉?不思議となんとかなるのよ。一緒にお料理するとね」とのこと。さらに毎週日曜日にはryugon 「幽鳥の間」でご主人の三味線に合わせて民謡を披露してくれるスーパーウーマンです。 山菜の保存は茹でて、塩をまぶして、冷凍して、食べる時は流水解凍と、行程はシンプルですが、それぞれ繊細なコツがあり「何十年もやってきて最近ようやく上手になった」と関さん。そして「土間でいろんな方とお料理するのは本当に楽しいわ。この山菜が美味しいなんて言ってもらったらもう最高。私の生きがいね」と満面の笑顔でした。